■暖かい夢の物語  5       
−マスクをした彼が登場。彼にスポットライト。この場面からはすべて彼の屋敷の中(窓を全て板でふさいで光が入らないようにしてある)での出来事になるためライトは極力暗めか、スポットライトで−
ただいまです。(マスクをはずす)
奥さん あなた。お帰りなさい・・・・・・何か、分かりましたか?
・・・(無言で首を横に振る)
奥さん そう・・・ですか・・・
牙を隠して、色んなお医者さんを尋ねて廻りました。同じ病気で苦しんでいる村も、沢山、沢山見てきました。・・・・でも・・・・・・
奥さん (首を横に振って)諦めるのは、まだ早いわ。きっと何か方法があるはずよ。
・・・・・・(首を縦にふる)はい。頑張ります・・・・!
−その時、ひと際苦しそうにうめき声を上げる病人1。はっとして病人1に駈け寄る二人−
病人1 うぐぐ・・・うがあああ!
大丈夫ですか!?しっかりして下さい!お水を・・・っ!
−病人1、水を取りに行こうとする彼の手を掴む。それを見て、代わりに奥さんが水を取りに行く−
ああ!僕はここにいます!ここにいますから、どうか、病気なんかに負けないで下さい!
−突然、うめき声がピタッと止まる病人1。彼と眼が合う−
・・・・・エディ・・・?
病人1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(一瞬微笑んでパタン、と手が落ちて息を引き取る)
エ・・ディ・・・?エディ!?
−病人1の身体を揺らす彼。奥さんが駈け寄って、彼を止める−
離して下さい!エディがっエディが!!
奥さん 落ち着いて、あなた!落ち着いて!!
−二人で倒れこむ−
・・・・・・・・・・・・・・うわああああああああ!
奥さん 泣かないで、あなた。彼は老人だったわ。病気の所為ではないかもしれない。あなたの所為ではないわ!
でもっ、でも彼は、エディは僕が名前をつけてあげた子なんです!僕は何もしてあげれませんでした!彼が苦しんでいる間、傍にいてあげることも出来なかった・・・僕は、僕は・・・何て無力なんでしょう!
奥さん いいえ、いいえ。あなた。あなたはちゃんと間に合ったわ。彼の手をとって、見届けてあげられたわ。ね?泣かないで。あなたが泣くと、私も悲し・・・(一瞬、動きが止まる奥さん)
・・・・・・・熱い・・・・
−お互いにハッとして目を合わせる二人。慌ててその場を離れようとする奥さん。奥さんの手を掴む彼−
待って!腕を見せて下さい!!
奥さん だめ!だめ!
−奥さんの袖を無理やり(でも丁寧に)めくって、愕然とする彼−
−彼の手を振りほどき、彼に背を向ける奥さん−
そんな・・・・・いつから・・・・?
奥さん ・・・・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい、あなた・・・
(首を横に振る)何も、言わなくていいですから。ほら、早く休んでください。(中央のベットのかけ布団をめくって奥さんを呼ぶ彼)ね?早く!
奥さん 私、ダメね。がんばったけど・・・病気に・・・なっちゃった・・・(振り返りながら)・・ごめんね・・・(崩れ落ちる奥さん)
ああ!!(奥さんに駆け寄って抱き起こす)謝るのは僕のほうです!僕は、人間じゃないから・・・っ!自分が人間の病気にはかからないから、あなたが病気になるなんて考えもしなかったんです!ああ、こんな身体で・・・皆の看病を・・・・辛かったでしょう?ごめんなさい、ごめんなさい・・・!!
奥さん いや・・・泣かないで。・・・ふふ、あなた泣いてばかりだわ。優しい人・・・私の血・・・病気になっちゃったから、もうあげられないわね・・・
・・・・え・・・・?
奥さん ほら・・・覚えてる?・・・結婚式の日・・・村中でお祝いしてくれて・・・嬉しかったなぁ。あの夜・・・私、あなたに血をあげたわ。ほんの、一口だったけど・・・
・・・血・・・そうか・・・血を吸い出せば・・・・
奥さん あなた?
そうです、血です!悪い血を吸い出せば、病気が治るかもしれません!ああ、どうして気付かなかったんだろう!
奥さん !だめ・・・!そんなことしたらあなたにもうつってしまうか・・・も・・・
−彼、奥さんの首に噛み付き、血を吸って、吐き出す演技−
ほら、ほら!!黒いアザがちょっと薄くなったでしょう!?
奥さん ・・・本当・・・すごいわ・・・
ね?ね?・・・(うれし泣き状態)・・ああ!!皆のも吸ってあげなきゃ!!
−次々に村人に噛み付いてまわる彼。ふらふらと立ち上がる奥さん。奥さん、前に出てスポットライト。他は真っ暗。奥さん、ふらふらしている−
奥さん ああ・・・嬉しそうに血を吸ってまわる彼を、どうしてとめることができましょう・・・あの日から、ずうっと彼は血を吸い続けています・・・毎日毎日、ちょっとづつ、ちょっとづつ・・・・でも、病気はこの村から無くなる気配はありません。とうとう、彼を除く村人全員が発病してしまいました・・・ああ、神様!60と3人いた村人達が、あっという間に30と7人に減ってしまいました!・・・私も、彼のおかげで生きながらえてはいますが・・・・・ああ・・・彼を置いて死んでしまう・・・彼を置いて死んでしまう・・・・!!神様・・・お願いです!!どうか御慈悲をっ・・・!!お願いです・・・・お願い・・・・
−ライトOFF。一旦幕を下ろす−
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